このあいだ、用事があって某所にでかけた。
約束の時間よりずいぶん早めに着いたので、時間までその辺をブラブラしていようと思ってアテも決めずに歩きだすと、まもなく、某激安衣料品店が目にとまったよね。
お店の名前は知っていたけど、実際に足を踏みいれたことはなかった。
それで、いい機会だから、ちょっと中をのぞいてみようかなって気になったのね。

お店の名前を、ここでは「Kねた」と伏せ字にしておく。これで地元の人間には十分通じるだろう。
でも地元以外の人には、「Kねた」なんて言われても、なんのこっちゃわからんよね。
一部地域限定でまったり営業している「Kねた」を、よりグローバルな視点からわかりやすくみんなに説明するにはどうしたらいいか、正直、わたしもいま頭をかかえてる。
でもがんばって、Kねたがどんな感じのお店か、これから説明してみるね。

まずはじめに、Kねたというお店を、「K子さん」という女子高生におきかえて考えてみてほしい。
K子さんは、市内の公立高校に通う17歳の女子高生で、おなじクラスの人気男子、湯煮九郎くん(仮名)にあこがれている。
湯煮くんは、頭がよくて、かっこよくて、誰にでも親切。
それにスポーツも得意で、子どもにもやさしくて、うさわによると家は超お金持ちだとか。
勉強もスポーツも女子力もこれと言ってパッとしない自分にコンプレックスを抱えているK子さんにとって、湯煮くんは雲のうえの存在だった。
でもそれでもいい、見ているだけで幸せなの・・・・・と、K子さんは思っていた。
クラスメイトの島むら子が、あやしい動きを見せるまでは。

「島むら子め・・・・・」
島むら子は、学校一のキラキラ女子だ。
うわさによると入学以来、あらゆるタイプの男子たちから周3のペースで告白されるほど、キラキラしまくっているらしい。
おそるべき、愛のなんでもござれ状態。
その島むら子が、どうやら湯煮九郎くんを狙っているらしい。
すきあらば、大きな瞳をうるませて、上目づかいで、小首をかしげて・・・・かわいい内股で・・・ミニスカートをヒラヒラさせて・・・手はペンギンみたいにピョコピョコふって!・・・湯煮くんのうしろを三歩さがってついて行こうとするのだ。

やめろぉっ、島むら子!私の湯煮くんに近づかないでっ!!
K子さんは胸のなかで叫んだよね。
湯煮くん、だまされないでっ!!
その女は、湯煮くんが思っているような子じゃないのよ。
島むら子はね、他校の人気者、鈍器ほう手くんと、すでに男女交際している仲なのっ!!

「あたし、知ってるんだから!」
・・・・・・でも、内気で恥ずかしがり屋のK子さんには、とても正面切って湯煮くんにそれを告げる勇気はなかった。
でもでも、島むら子の不純なキラキラぶりがもう目にあまるところまできちゃってたから、湯煮くんを守るためには自分が立ち上がるしかないって悟って、とうとうある日、島むら子のところへ直談判にいったんだ。
湯煮くんが風邪で早退したある日の昼休み、K子さんは、もてる勇気をふりしぼって島むら子の机の前に立った。
そして、ふるえる声で「こ、こ、これ以上、湯煮くんに近づかないで」って言ったよね。
友だちの阿部いる美とおしゃべりしていた島むら子は、何こいつ、ってかんじでジロリとK子さんをにらんだ。
それからけだるそうに髪をかき上げて言ったよ。
「っていうか、あんた、湯煮くんのなんなわけ?」
「わ、わたしはただ・・・島むら子さんが、旧長崎屋高校の鈍器ほう手くんとつきあってるって聞いて、それで──」
「私がだれとつき合おうが、あんたに関係なくない?」
「そ、それはそうだけど、でも・・・・は、は、ハレンチな不純異性交遊に、湯煮くんを巻きこむことだけは、やめてほしいの!」
「はは~ん、わかった。この子、湯煮くんのことが好きなんだよ」
そういうと島むら子は、腰ぎんちゃくの阿部いる美と意味深な目配せをしてクスクス笑い合った。
K子さんはかわいそうに、耳までまっかになって、何も言えずにうつむいて立っていたよ。
島むら子はK子さんに向きなおると言った。
「あんたが何たくらんでるのか知らないけど、私のきもちは誰にもとめられない。いつかきっと、私のラブテックで湯煮くんの心をつかんでみせる。あんたも好きならそうすれば?もっとも、地味でマイナー、超ローカル展開のあんたと、キラキラ全国展開しちゃってるこの私とじゃ、さいしょっから勝負は見えてるけど!あーはっはっは!あーーはっはっはっ!!」

「・・・・・・・・・」
Kさんは唇をかみしめて自分の席にもどると、そのまま机につっぷした。そして、人知れず泣いたよ。
島むら子さんったら、ひどい。
あんな言い方、あんまりだわ。
ちょっとくらい自分がかわいくておしゃれで全国展開してるからって、なによ!
あの人って、いつもそう。ローカルな人間のきもちなんか考えてみたこともないのよ。
なーにが、「今日はいてるこのジーンズ、1470円♪」よ!
みんながみんな、そんなブランド物ばっかりはいてるわけじゃないんだからね。
ええ、そうよ、うちのジーンズは、サンキュープライスの399円よ。
ゴムウエストの、ギャザー仕様ジーンズよ!
それがおかしい?
すそもギャザーですぼめてサルエルっぽくはけるようにしてるのが、そんなにおかしいっていうの?!
ええっ、どうなのよ、島むら子!
答えてみなさいよっっ!!!

「・・・・・」「・・・・・」
・・・・・とまあ、だいたいこういう感じの話なんだけど、うまく伝わっただろうか。
これでK子さんこと「Kねた」のことが、おぼろげながらでも伝わってくれているとうれしい。
でも、たとえ全然伝わらなかったとしても、気にしないでほしい。
私自身、書いている途中で着地点を見失ってしまったし、自分でも何が言いたいのかよくわからなくなっていた。
とにかく。
そういう感じのKねたに入って、中の様子をのぞいてみたんだ。

(当時の様子を、詳細なスケッチで再現)
ざっと見まわしたかぎり、来ているお客さんの年齢層は幅広かった。
したは幼稚園ぐらいの子から、うえは6、70代の奥さままで、さまざま。
ヤング世代のきれいなお姉さんもいたよ。
あつかっている衣料品もレディースのみならず、キッズにメンズ、介護用品までいろいろある。
そっかぁ、Kねたって、こういう感じのお店かぁ・・・・・
そう胸につぶやいて店を出ようとしたそのときだった。
ふと、背後で交わされている会話が耳にはいった。
会話しているのは小学校3、4年生くらいの女の子と、その祖母らしい女性のふたり。
女の子がいろんな商品を手にとって「どう?」とおばあちゃんに見せているんだけど、おばあ様の反応はかんばしくない。
すこし考えた末、少女はべつの商品を手にとって「これは?」と見せた。
すると、それを見たおばあ様のテンションが急に上がった。
おばあ様はうわずった声で言ったよ。
「あら、チャンネル?!いいじゃないっ」
・・・・・そうなのだ。Kねた的時空のなかでは、チャンネルが、正解なのだ。
いまあえて、だれも持っていないチャンネルをさりげなく合わせてみるのが正解。
チャンネルではずしてみるのが、正解。
はずしすぎて戻れなくなったとしても、それもまた、正解。
私たちの知らない正解が、まだまだK子さんちにはたくさん眠っている気がする。
あなたの知らない正解。
それをこれから一緒にさがしに行こう。
K子さんと一緒にさがしに行こう。
長い道のりになるとしても。